扉を開き、とりあえず中を覗き込む。
今日は中のシャンデリアがついていて、中にはやっぱり首を切られた体が転がっていた。
……うう、別に本当の死体じゃないと教えられていても、これは気持ちのいい光景じゃない。
首なしの身体を避けて、厨房へと向かう。
そのドアを開き、こっそりと中を伺うと……
「ラ〜ラ〜ラ〜♪」
間延びした声で歌っている、ウミガメモドキがいた。……ひっくり返った状態で。
呆れつつ見ていた私を、ふとウミガメモドキも振り向いた。ばっちり眼が合う。
「アリス! アリスかい!? アリスだね!? 女王様の今日のディナーになりに来たんだね!?」
「……違うわ」
どうしよう、大喜びだ。
とりあえず否定しておいて、ウミガメモドキの傍まで歩いていくと、しゃがみこんだ。
「あのね、お願いがあって来たの」
「お願い? 僕にかい? 珍しいねェ」
「うん……あのね、明日はバレンタインじゃない? みんなにチョコレートをあげようと思っているんだけど、私上手い作り方を知らなくて……。ウミガメモドキなら、詳しいんじゃないかと思って来たの」
「なるほどォ」
うんうんとひっくり返ったままのウミガメモドキが頷く。
「教えて貰えるかしら?」
「いいとも! 僕らのアリスのお願いならね!」
「本当!? ありがとう! それじゃあ明日、また来るね! 女王様にはナイショね! びっくりさせたいから!」
「解った、任せて……ってアリスー!? 起こして行っておくれー!」
仰向けにひっくりかえったままのウミガメモドキの手が、包丁にこっそり伸びているのを見て、私はその場から走り出した。
流石に今、ディナーにされてはたまらない。
もう一度首なしの身体をひょいひょいと超えて、ホールに戻ると、誰もいないのを確認してから私は外へ出る。
そして井戸から公園に戻ると、家に帰った。
そして、2月14日。
チェシャ猫には何も言わず、こっそりと家を出る。出る直前に見てみると、チェシャ猫はお祖母ちゃんと向かい合ってお茶を飲んでいて、それを叔父さんが複雑そうに見ていた。お祖母ちゃんは時々チェシャ猫と世間話をしているみたい。チェシャ猫も馴染んでいるみたいで、良かった。
公園まで来ると、やっぱりまだ帽子屋達はいなくて、私はジャングルジムの真ん中から降りていった。それにしても、途中から滑って落下してしまうのは、そういう仕様なんだろうか……。
また女王様のお城の前にたどり着くと思っていた私は、突然、意外に柔らかな場所に落ちた。
「わあっ!」
「グギャアッ!」
……え、今の声は何だろう。そしてこの柔らかい、手触りのいい毛並みは……。
眼を開くと、驚いた顔で振り向いている鷲の顔と、反対側から覗き込む蛇の顔があった。
「グリフォン!?」
「おや、アリスかい」
驚いて身を起こすと、鷲の方が身体をぶるんぶるんと振るわせる。どうやら、グリフォンの真上に落下してしまったらしい……。
「ご、ごめんなさい、こんな所に落ちるなんて……!」
「いやいや、アリスが謝ることではないよ。気にしなさんな」
「で、でも……」
鷲はまだ苦しそうに呻いているし、それに結構勢い良く落ちちゃったし……!
「見たところ、井戸から落ちてきたんだろう? 井戸は気まぐれじゃからの」
そう言って蛇は愉快そうに笑った。
「……ごめんね」
「いいや。それよりアリス、どうしたんだね、こんな場所に一人で?」
「あ、うん、あのね……」
私はグリフォンに、昨日の事と、バレンタインの事を説明した。
すると、蛇がくるんと首を傾げる。
「ウミガメモドキに教わるとな。……大丈夫なのかね?」
「え……っと。うん、なんとか」
多分、大丈夫だと思う。
曖昧に笑うと、グリフォンは身体を起こした。
「どれ、わしも着いて行ってあげよう。すぐ外にいるから、何か危険な事があったら呼びなさい」
「あ……ありがとう!」
そっか、グリフォンがいるなら安心かもしれない。
グリフォンと一緒にお城まで歩いていくと、グリフォンにお城の外に居て貰って、私は正面の扉から、中に入って行った。
「アリスゥー! 待っていたよー!」
「あ、うん、こんにちは」
今日はウミガメモドキはしっかり立っていた。
……うう、大丈夫よね。
外にはグリフォンだっているし。グリフォンもこうして協力してくれているんだから、しっかりしないと!
ぎゅっと握り拳を作る私を他所に、ウミガメモドキはせっせとお菓子作りの材料を並べていた。
「あ、私も一応、材料持ってきたよ」
「そりゃあいい。たぁーくさん作れるねェ!」
ウミガメモドキはご機嫌そうだ。
今日は私を料理にとか言わないし、大丈夫みたいだ。
私は安心して、ウミガメモドキと一緒にチョコレート作りに取り掛かった。
それからしばらく経って。
「うん、カンペキだねぇ!」
私達の眼の前には、たくさんのトリュフチョコレートが並んでいた。
色んな人にあげたいから、沢山作れるものを、という事で選んだのだ。
少し不揃いだけどとても美味しそうなチョコトリュフだ。
「ありがとう、ウミガメモドキ!」
「いやいや、おじさんはアリスを手伝っただけだよぉー」
ウミガメモドキは照れて頭をかく。
「それじゃ、最後の仕上げをしようか」
「最後の仕上げ?」
トッピングだろうか、それともラッピング?
首を傾げる私に、ウミガメモドキは後ろからそっと……包丁を取り出した。
「アリスの血でブラッディトッピングをね! きっと女王様も喜ぶぞー!」
「えええええ!!?」
い、今の今まで、意外にいい人だと思ってたけど!
間違いだった!
私は……
⇒大声で叫んだ
⇒一目散に逃げた
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