ベーカリー・カメダだろうか?
私はきょろきょろと周囲を見回すと、こっそりベーカリー・カメダに近付いた。
窓から中を覗いているが、カーテンがかかっていて何も見えない。
チョコの匂いがますます強くなった。中で何かやっているのかな?
でも、誰もいないんなら仕方ない。早く材料を買って戻ろう。
きびすを返した私の後ろで、引き戸の開く音がした。

「あ」

振り返ると、……一人の体格のいい男……多分、こしあんぱんだろう。そのこしあんぱんが私の腰を掴んで肩に担ぎ上げたかと思うと、

「アリスだ! アリスが俺達のチョコを食べに来てくれたぞぉぉっ!」

大声で叫びながらベーカリー・カメダの中に駆け込んだ。

「ちょ、ちょっと待っ……」
「アリス! よくぞいらっしゃいました!」
「丁度バレンタインフェアーをやっていた所です!」

さっきは静かだったのに、店の中にはこしあんぱんが揃っていた。
店の中に入ると、ますますチョコの匂いが強くなる。

「……バレンタインフェアー?」

椅子の上に下ろされた私は、少し気になった単語を拾って問いかける。
前にいたこしあんぱんが嬉しそうに頷いた。

「ええ、今年から始めたイベントなんですよ! 早速アリスが買いに来てくれるなんて!」
「ちょ、それは違うんだけど……」
「若い女の子向けにも自信を持ってお勧め出来る品ですからね、こしあんぱんは!」

やっぱり私の言葉なんて聞いてくれない。
勝手にうんうんと頷き合っているこしあんぱん達の一人が、奥から大きなボウルを持ち出してきた。

「商品はこちらの方になります!」
「え? でもこれ、固まってないチョコじゃ……」

ボウルの中には今溶かしたばっかりのチョコレートが入っている。これが商品?
疑問に思っていると、こしあんぱんはそのボウルに入ったチョコレートをおたまをすくうと、もう一人のこしあんぱんに頭からチョコレートをかけた。

「…………!!?」
「さあどうぞアリス!」
「どどどうぞって、え!?」
「これぞ我等が新商品、チョコこしあ〜んぱん!」

何その色んな所から怒られそうな駄洒落!!?
思わず入れそうになったツッコミを押さえていると、チョコがけのこしあんぱんがズズイと前面に押し出されてきた。

「遠慮はいりません、さあ!」
「いやあの違、」
「さあ頭からガブリと!!」

相変わらず人の話を聞いてない。
その前にバレンタインなら私が食べるんじゃなくて、誰かにあげるためじゃないの!? でもこんな場面でそんな事を言ったら、またどうなるか……!

「さあ、アリス」
「う……あ……えっと……」

じりじりと迫ってくるチョコがけこしあんぱんと、じりじりと後ずさりする私。ゆっくりゆっくり出口の方に向かうけれど、更に迫ってくるチョコがけこしあんぱんの後ろでは、次々と別のこしあんぱんにチョコがかけているのが見える。
ドアに近付いたら、飛び出して逃げよう。
そう決心してなおもじりじりと下がる私の背後で、急にドアが派手な音を立てて開かれた。

「え、」

振り返ると同時に、突然誰かに身体を掴み上げられ、担がれる。
急にぐるりと回った視界で、誰かに担がれてベーカリー・カメダの外に出された事が解った。

「貴様ら、我らのアリスに何を!」

私を担ぎ上げた人物がそう怒鳴る。

「何だと!? お前達こそ、アリスに乱暴を!」
「我らはアリスを助けに来たのだ、何だそのザマは! 不気味な西洋の液体などかけおって、嘆かわしい! あんぱんの誇りも忘れきったのか!」

なんだと、とか、何を、とか、怒声があちらこちらで響き渡る。
やばい、とってもまずい! このままだと……

「ちょっと待って、ねえ……!」
「おのれ、今日こそ決着をつけてくれる!」
「望むところだ!」

やはり私の言葉は無視されて、片方が日本刀を振りかざし、片方が銃を手に構えた。
うおおおおおおお、という怒号と共に、あんぱん達が波のように入り混じった。私を担ぎ上げていたあんぱんの腕が緩んだ隙に、私は身を捩ってそこから降り立ち逃げ出す。が、腰を低くして取っ組み合っているあんぱんの中を進むのは、用意じゃない。

「ど、どいて……きゃあっ!」

一人のあんぱんを避けたと思うと、眼の前に日本刀が突き刺さった。何処かから飛んできたらしい。
思わずそこにへたれこみそうになる私の手を、誰かが掴んだ。








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