「こっちだ!」
そう言って手の主は私を引っ張り走り出す。何がなんだか解らないうちに、私は引かれるままに走った。
あんぱんを避けて、何回か角を曲がって店の裏にまで回り、走った後でゆっくりと止まる。
私は切れる息を必死で整えながら、手を引いてくれた彼を見た。
「あ、ありがと、廃棄くん……」
「……ああ。しっかし、お前も懲りないなぁ」
「好きであの騒ぎに巻き込まれたんじゃないもん」
私の手を引いてくれたのは、ストロベリージャムパンの廃棄くんだった。
廃棄くんは呆れたように腰に手を当てて、笑っている。
「ここは?」
「菓子の材料買いに来たんだろ? その店の裏」
離れた表では、まだ大騒ぎが続いているようだ。
……今、表に回ったら見つかるだろうなぁ。
「裏口から入れるぜ。こっちだ」
私の迷いが解ったように、廃棄くんがそう行ってまた先導してくれた。
店と店の間にその店の小さな非常口があり、そこから中に入る。
お店の中は無人だったけれど、お菓子の材料やラッピングの紙やリボンなんかが沢山置いてあった。
「お金、どうやって払うのかしら……」
「別に払わなくていいと思うけど。気になるんだったらそこに置いておけば?」
誰も居ない店の奥を覗いていると、廃棄くんはレジの方を指して言った。
……このお店、誰か経営しているのかな?
気になったけれど、考えても仕方ない。私は足りないと言われていたチョコレートとココアパウダーを手に取り、合計金額の分をレジの硬貨入れに置いておいた。
廃棄くんはスモークガラスから外の様子を見ている。
「……まだ、やってる?」
「ん」
ああ、何で仲良く出来ないのかなぁ。
チェシャ猫や廃棄くんに言わせると、あんぱん達は好きでやっているらしいけれど。仲が良いにこしたことはないと思うんだけどな。
そっとまた裏口から外に出て、ベーカリー・カメダも裏から周り、走ってエレベーターまで向かう。前と違って店と店の間の通路で戦っているので、泉の広場まで逃げれば大丈夫だ。
「じゃ、気をつけろよ」
「……あ、待ってよ廃棄くん! 一緒に作らない?」
エレベーターの前まで来て、きびすを返そうとする廃棄くんの手を掴んでそう持ちかけると、廃棄くんは驚いて私を見上げた。
「作るって……チョコをか?」
「うん。で、どうせなら一番に貰ってほしいもの!」
ここまで手助けして貰ったのに、何もあげずに帰すなんて事はしたくない。
廃棄くんは少し考えるように首を傾げた後で、頷いた。
「そうだな、アリスは頼りないからな。また騒ぎに巻き込まれるかもしんねーし」
「ひ、ひどーい!」
抗議すると、廃棄くんは笑いながらエレベーターに乗る。
一階のボタンを押して、相変わらずな騒ぎを続けるあんぱん達を遠目で見ながら、廃棄くんは呟いた。
「でも俺、パンだからチョコは食えねーけどな」
「あ」
そういえば、そうだった。
今更気付いた私に、廃棄くんはおかしそうに笑って言う。
「全く、仕方ないな、アリスは。」
「……うう」
何も言い返せない。
けれど、廃棄くんが楽しそうだから、まあいいか。
私はそう思いなおして、手に下げたビニール袋を持ち直した。
沢山のチョコレートが、袋の中で音を立てる。
チョコレートの表に描かれたハートマークが、何だか照れくさかった。
廃棄くん END
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