「うーんと……えっと、やっぱり私、家で作ってくるね」
「……そう?」

何だか寂しそうに女王様が言った。
うう、何だか罪悪感が胸に湧くのは何でだろ。

「うん……あのね、また後で遊びに来たいんだけど……いいかな?」
「まあ! 本当!? アリスならいつでも大歓迎よ。それなら、美味しい紅茶を用意して待っておくわね」

また笑顔になった女王様に安心して、私は女王様とトランプの兵隊に手を振ると、歩き出した。
厨房から出て表の扉を開くと、その音を聴いたのかグリフォンが身体を起こして歩いてくる。

「どうだい、上手くいったかね?」
「う……うーん、一度は作ったんだけど……」

厨房での顛末を語ると、グリフォンは苦笑を滲ませた声で、そりゃあ大変だったね、と言った。

「さて、じゃあどうするかい?」
「んー……そうね、まだ材料は家にあるから、もう家で作った方がいいかも」
「そうかい。それじゃあ、近くまで送っていってあげよう。背に乗りなさい」
「あ、ありがとう!」
「なあに、わしらのアリスのためじゃからな」

グリフォンはそう言って笑う。
鷲もクルクルと喉を鳴らして笑った。
私はその背中に乗りながら、グリフォンにチョコをあげる時には鷲の方にあげればいいのか蛇の方にあげればいいのか、不意に迷ってしまう。
鷲も蛇も、チョコレートは食べなかったような……?
……どうしよう。
背中に乗りながらずっと考えていると、すぐにふわりとした失速感が来て、

「ついたぞ、アリス」

蛇が私の顔を覗き込んできた。
見ると、そこはおばあちゃんの家の玄関の前。

「わ、こんな所まで送って貰ってごめんなさい!」
「いやいや」

またも豪快に笑うグリフォンに、私は気になっていたことを尋ねてみた。

「……ねえ、グリフォンはチョコレート、食べるかしら?」

問いかけると、蛇はくりんと頭をかしげる。
そして、

「わしも気になってはいたのだが……ちょこれーととは、何だい?」

そう尋ねてきた。
……そもそもを知らなかったのね……。

「えーと、お菓子なんだけど……甘いの」
「ふむ、それなら鷲が食べるかもしれんのう」

鷲かあ。蛇の方にも食べて貰いたかったんだけど、解らないんなら仕方ない。

「それじゃあ、グリフォンにも作ってくるね!」
「気にせんでもいいよ」
「ううん! あげたいの」

すると、また鷲がクルクルと喉を鳴らして、蛇がくりんと頭を傾げた。

「それなら楽しみに待っておくよ。わしらのアリス」
「うん! それじゃあ、後でね!」

手を振ると、グリフォンはまた翼をはためかせて、ふわりと浮き上がった。
その姿が遠く見えなくなるまで見送って、私は家に向き直る。
この際、叔父さんにはバレてしまっても仕方ないかな。
考えながらそっと家に入る。

「ただいまー」
「亜莉子か。どこに行ってたんだ?」
「あ、叔父さん」

靴を脱いで玄関に上がると、叔父さんが居間から出てきた。
そういえば何も言わずに出ちゃったしね。

「えーっと、ちょっと……相談に」
「相談?」

不思議そうに首を傾げる叔父さんにアハハと笑って誤魔化し、台所に入る。
昨日買っておいた材料はまだあると思うけど……。
がさがさと取り出していると、

「アリス」

いつの間に来たのか、私の足元にチャシャ猫の首が転がってきた。

「チェシャ猫。ただいまー」
「お帰り。何をしているんだい?」

抱き上げると、チェシャ猫はごろごろと喉を鳴らした。

「うん。チョコレートを作るのよ。バレンタインでしょ?」
「ばれんたいん」

あ、そういえばチェシャ猫は昨日もバレンタインは何かって聞いてきたけど、誤魔化していたんだった。
でももう、今更よね……。

「お世話になった人とかにね、チョコレートや贈り物をあげるの。私もみんなにチョコレートをあげようと思って」
「そうかい」
「チェシャ猫は、チョコレート好き?」

チェシャ猫の首をテーブルの上に置いて、お菓子作りの道具を出しながら尋ねると、チェシャ猫は何でもないかのように言う。

「僕はアリスが一番スキだよ」

ガッシャーン!
思わず手にしていたボウルやらを落としてしまった。
……うう、チェシャ猫はそういう事を本当にストレートに伝えてくるから、困ってしまう。
でも。

「……うん、私も大好きよ」

だから、今日は心をこめて作ろう。
一年に一度の日だから。





チェシャ猫 END






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