「ううん、自分で作りたいの。えっと、女王様、この厨房を借りていいかしら?」

女王様に聞くと、女王様は不思議そうに首をかしげながらも頷いた。

「いいわよ。でもアリス、どうしてそんなに作りたがるの?」
「えっとね……女王様、今日、何の日か知っている?」

問いかけると、女王様は解らないわ、と首を振った。

「今日はね、バレンタイン・デーっていって、えーと……お世話になった人とか、好きな人とかにチョコレートをあげる日なの」
「まあ。素敵な日なのね!」
「うん。それでね、今日はみんなにあげようと思って!」
「みんなに……。……アリス、わたくしは……」
「勿論、女王様もだよ! あ、でも、私もあまり作りなれていないから、そんなに美味しくはないかもしれないけれど……」

女王様なら、もっと美味しいお菓子とか食べなれているだろうし、あまりマズいものを作ったりしちゃったら、失礼かしら……。
けれどもそう言う私に、女王様は物凄い勢いで首を振った。

「いいえ! アリスの作るチョコレートだもの! 美味しいに決まっているわ!」
「そ、そう? ありがとう、」

わあ、何だかそこまで言って貰えると照れちゃうよね。
女王様の許可も貰って、私は今度は一人でチョコレート作りに挑戦した。
ウミガメモドキは、女王様が鎌の杖でホールに吹き飛ばしてしまったままだ。
さっき一緒に作った通りのレシピと、トランプの兵隊にも少し手伝ってもらって、何とかまたトリュフチョコレートを作るのに成功する。

「ちょっと味見……」

一個だけ食べてみると、少しだけ硬いけれど、しっかりとしたチョコレートの味が口に広がった。

「出来たー!」
「おめでとうです、アリスー!」
「ありがとう!」

ぷっぷーとラッパを鳴らすトランプの兵隊にもお礼を言っていると、厨房の扉からそっと女王様が顔を出した。

「アリス、もういいかしら?」
「あ、うん!」

土壇場で思いついたほんの少しの計画で、女王様には外に出ていて貰ってたのだ。
嬉しそうに中に来る女王様は、出来上がったトリュフを見て感嘆の声を上げた。

「とても可愛らしいお菓子ね! 素晴らしいわ、アリス!」
「あ、ありがとう……」

こんなに喜んでもらえると、本当に照れてしまう。
それで、と私は女王様に向き直り、後ろ手に隠していたものを差し出した。

「これは女王様に!」
「え……? ……!」
「今日は本当にありがとう!」

差し出したのは、同じトリュフと一緒に入れた、ハートの形のチョコクッキー。
ラッピングもしたそれを渡すと、女王様はそれを胸に抱きかかえてとても綺麗に笑ってくれた。

「ありがとう、わたくしのアリス!」
「わ!」

がばりと抱きついてくる女王様に、照れくさい気持ちになりながらも私も笑う。

「喜んでもらえて良かった! ……でも、あの、鎌は……」

抱きついてはきたものの、反対側の手には相変わらず鎌を持っている。
女王様は、あら、と気付いたようにがばりと身体を起こして、鎌を両手で持ち直すと、にっこりと笑った。

「そうね! 今日はアリスの首を膝に乗せて、アリスのチョコを食べましょう!」
「ええええーー!!?」

が、頑張ったのにやっぱりこの展開!?
うきうきと鎌を掲げる女王様に、私は慌てて言い繕った。

「まま、待って女王様! 一緒に! 一緒に食べましょ!? ほら私も身体がないと手で食べられないしっ」
「あら、そんなの。わたくしがアリスに食べさせてあげるわ!」
「じ、じゃあ、私も女王様に食べさせてあげる! だから身体は必要よっ……」

咄嗟に言った一言に、女王様は動きを止めた。

「……わたくしに? 食べさせてくれるの?」
「う、うん!」
「それなら手は必要ね!」

そう言うと、女王様は嬉しそうに私の手をきゅっと握った。

「中庭で食べましょう、アリス! 美味しい紅茶もあってよ」
「う、うん」

引かれるままに、私は歩き出した。
本当はみんなにあげに行きたいから、ひとつの所にじっとしてはいられないんだけど、でも。

「庭にとても美しい花が咲いているの。悪食だから近くには寄れないけれど、見る分には美しいわ」

私の手を握って楽しそうに言う女王様が、とても嬉しそうだから。
まあ、いいか。
私も笑って、女王様の手を握り返した。





女王様 END






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