またここで作っても夫人に食べられちゃうかもしれないし、それにこれ以上カエル達に迷惑もかけられない。
「ごめんね、私家に帰って作ることにする」
「そ、そんなぁっアリスー!」
「あっ別に怒ってるとかじゃないから! 作ってまた持ってくるから!」
悲しい緑色になっていたカエル達に慌ててフォローすると、カエル達はそうですかー、と首を傾げた。
「アリス、私とハニーにも……」
「……お二人の分は、さっき夫人が食べた分ってことで」
えええ、と公爵がショックを受けている。……これくらいは言っても、いいよね。
私はカエル達にお礼を言うと、レストラン・イナバから出た。
「……でも、家でやるとチェシャ猫と叔父さんにバレちゃうなぁー……」
どうしよう。
他に出来るところ、あったかしら?
ホテルのロビーを歩きながら考えていると、ふとひとつの場所が頭に思い浮かんだ。
あそこなら、大丈夫かしら?
「それでここへ?」
「うん……ごめん、迷惑、かな?」
「いいえ、私たちのアリス」
チョコレートを刻む私の横で、お湯を鍋にはっているビルがそう言った。
ここは廃ビルの一室。他の部屋は焼けた後があるけれど、ここはビルが綺麗にしているし、台所だって使える。
突然尋ねてきた私に、ビルは台所を貸してくれて、更に手伝いまでしてくれた。
作るのは、さっきと同じトリュフ。
「ありがとう。……いたっ」
余所見しながら切っていたせいか、指の端を少し切ってしまった。
やっちゃった、と思っていると、ビルの細い指が私の手を掴み、持ち上げる。
「なに……って、び、ビル!!?」
そのまま指がビルの唇に触れて、口の中に。傷口が細い舌に舐められて、ぴりっとした微かな痛みが走る。
慌てまくる私に、ビルはそっと指を離すと、笑いかけた。
「とても甘くて美味しいですよ、私たちのアリス」
「…………」
それは、指についたチョコレートが甘いのか、私の血が甘いのか、訊くのは怖かったから、私はただ真っ赤な顔を俯けた。
ビルはまた静かにチョコ作りの作業に戻る。血の止まった指をぎゅっと握り締めて、私も続いた。
とりあえず、一番先に出来上がったトリュフをビルにあげよう。
トリュフも甘くて美味しいと言ってくれるだろうか?
それはまだ、解らないけれど――……。
ビル END
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